【映画評】プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 (2010)
古代ペルシャ帝国を舞台に、神秘的な短剣に秘められた“時間の砂”を巡るエキゾチックなアクション冒険ファンタジー。
ファンタジー映画としての作り込みは甘いけれど、アクション冒険活劇として堂々の力作。
ヒット・ゲームを原案としたアクション・ファンタジー。ただしゲーム版との関連性はなく、完全映画オリジナル・ストーリーらしいです。
監督は『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005年)のマイク・ニューウェル。
『アルマゲドン』(1998年)や『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(2003年、2006年、2007年)などで知られる名プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーが製作。
ペルシャ帝国が繁栄を誇った古代。スラム街の孤児ダスタンは、ひょんなことから時の国王、シャラマン(ロナルド・ピックアップ)にその勇気と身体能力を認められ、養子として迎えられる。
それから15年の時が経ち、シャラマン王の血を引く王位継承者の長男タス王子(リチャード・コイル)、次男ガーシヴ王子(トビー・ケベル)に次ぐ第三の王子として育ったダスタン(ジェイク・ギレンホール)。
たまたま国王の不在時、国境近くの聖なる都アラムートが敵に武器を売りさばいているとの情報を得た彼らは、シャラマン王の弟ニザム(ベン・キングズレー)と会議の末、一気に攻め入ることを決議する。
かねてからシャラマン王に言われていた「アラムートには手を出すな」との言葉を気に掛けるダスタンは、戦の犠牲を最小限に食い止めるべく、自身の部隊と共に単独行動に出るのだった。
一方、国の危機に気づいたアラムートの王女タミーナ(ジェマ・アータートン)は、神殿からあるものを避難させるよう、一人の戦士に託す。しかし彼は城壁を越えることに成功したダスタンによって倒されてしまう。彼が命がけで守ろうとした包みからガラスの柄を持つ短剣を手に入れるダスタン。
ダスタン王子の活躍によりアラムート制圧に成功したペルシャ軍。タス王子はタミーナ王女に自分の妃になるよう要求するが、彼女は頑なにこれを拒む。しかし、ダスタンがあの短剣を手にしているのを目にしたタミーナは…。
世界観的にはよくある古代ファンタジーものだが、“時間の砂”が本領を発揮するクライマックス以外は魔法が飛び交うような神秘性はあまり感じられなくて、奔放な王子と高飛車な王女の滑稽な掛け合いと華麗なアクションを楽しむ冒険エンターテイメントという趣。
VFXの成熟によってこの手のファンタジーもの、古代・中世ものが次々作られるようになったが、実写映画は身体を張ってなんぼなんだという意気込みを感じる力作だ。
冒頭の少年ダスタンの追跡劇を手始めに、すぐさまアラムート侵攻での攻防と、手に汗握るアクションで序盤から大いに盛り上がる。
もちろん派手なアクションもVFXあっての賜物ではあるのだが、役者の演技の延長上で、それを補うのが視覚効果=ヴィジュアル・エフェクトという、本来こうあるべき演出のさじ加減が素晴らしい。
VFXを駆使した美術はあくまで世界観を裏打ちする背景、カメラはきっちり演者を追う。
モロッコ・ロケにこだわった景観の美しさがあってこそCGによるお城の美しさも引き立つし、中盤に登場するダチョウ・レースにいたってはCGとかまったく関係なく、“生”の可笑しみで笑わせてくれる。
スクリーンに表立って出てくることはないけれど、スタッフ&キャストの苦労が忍ばれるシーンてのは、個人的にも大好きだ。
ディズニー製作らしくファミリー映画の域を出ていないので、ストーリー的にはおとぎ話そのもの。
ただ、もろにアメリカのイラク侵攻を彷彿とさせる筋立ては、それで社会派を気取るでもなく、単に突っ込んでくださいという茶化しネタにしかなっていない。
愉しくあるべきファミリー向け映画でのこういう生臭さは話題作りのための気がして、そのことの方が生臭い。
むしろ単純な娯楽映画として、悪玉の腹黒さとか、殺し合いでの血の気とか、セクシーなお色気とかといった面でこそ、もうちょっと刺激があってもいいのにって思うのだけれど、まあこれはこれでアリだろう。
気まずい雰囲気になりようのないハッピーエンドのロマンスは、中高生くらいのデート・ムービーとしても最適。
あえて難を言えば、鍵を握る“時間の砂”が予想通りのご都合主義な小道具にしかなっていない、ファンタジー映画としてのもの足りなさ。
時間をいじること自体、ご都合主義と紙一重なので、ここでもう一ひねり予想を覆す大仕掛けを用意してくれなければ傑作にはなりえない。
思い返してみれば、時間を操るSF映画やファンタジー映画の傑作は、必ずその点での工夫があるんだよね。
ドラマに深みを求めるような内容ではないし、ちょっと駆け足ぎみの後半の展開も気になったけれど、スクリーンで観てこそのアクションは見応えがあり、いい意味で無難にまとめられた手堅い冒険ファンタジー映画。
単刀直入なタイトル「プリンス・オブ・ペルシャ」=“ペルシャ王国の王子”同様、「冒険活劇の王道、ここにあり」といった感じで、映画館で映画を観ることの愉しさを覚えた頃のワクワク感を思い起こさせてくれる良作でした。
作品データ - Film Data
- 【キャスト】ジェイク・ギレンホール/ジェマ・アータートン/ベン・キングズレー/アルフレッド・モリーナ/スティーヴ・トゥーサン/トビー・ケベル/リチャード・コイル/ロナルド・ピックアップ
- 【監督】マイク・ニューウェル
- 【脚本】ボアズ・イェーキン/ダグ・ミロ/カルロ・バーナード
- 【スクリーン・ストーリー】ジョーダン・メックナー
- 【原案】ジョーダン・メックナーによるゲームシリーズ「プリンス・オブ・ペルシャ」
- 【製作】ジェリー・ブラッカイマー
- 【製作総指揮】マイク・ステンソン/チャド・オーマン/ジョン・オーガスト/ジョーダン・メックナー/パトリック・マコーミック/エリック・マクレオド
- 【撮影監督】ジョン・シール,ACS,ASC
- 【プロダクション・デザイン】ウルフ・クローガー
- 【編集】マイケル・カーン,A.C.E./ミック・オーズリー/マーティン・ウォルシュ,A.C.E.
- 【衣装デザイン】ペニー・ローズ
- 【視覚効果スーパーバイザー】トム・ウッド
- 【音楽】ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
- 【提供】ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ/ジェリー・ブラッカイマー・フィルムズ
- 【配給】ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
- 【原題】PRINCE OF PERSIA: THE SANDS OF TIME
- 【字幕翻訳】林完治
- 【日本公開】2010年
- 【製作年】2010年
- 【製作国】アメリカ
- 【上映時間】117分
- 【公式サイト】http://www.persia-movie.jp/
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